2012年3月8日木曜日

「福島から世界を変える」 佐藤幸子

「福島から世界を変える」  佐藤 幸子
 福島県民の200万人が、原発事故によって人生を変えられてしまいました。自分で選んだわけでもなく、わが身に起こった出来事を1年経とうとしている今でさえ受け入れる事ができずに苦しんでいます。
 山形に避難させた私の子どもたちもそうです。結婚1周年目を迎えたばかりの長女は、福島を離れられないという夫に「このまま福島に住み続けるのなら、子どもは産まない」と宣言、ようやく承諾を得て山形に避難を決めました。しかし、同居を始めたばかりの義父は快く思わず、関係を悪くしてしまいました。 
 中学2年生の次女は、親友と離ればなれになることに抵抗して、転校しても学校へは行かず今もずっと家にいます。小学生のときの同級生に女子がおらず、中学生になって初めてできた女子の友達だったのです。
 18歳の三男は、我が家の農業を手伝いながら、私が経営する福祉事業所でも働いていました。しかし、放射能で汚染された農地で作物を作ることはできず、また労働基準法で決められている「放射線管理区域」では18歳未満は働かせてはいけないことになっているため、当時17歳だった三男を事業主としても「解雇」せざるを得ませんでした。学習障がいのある三男は、普通の会社で働くことはできず、今も失業したままです。
 私の職場でも、若い人、小さい子どものいるスタッフに避難を呼びかけ、3家族が避難しました。残ったスタッフの中には、未だにそのことを受け入れることができないスタッフもおり、職場の中がギクシャクしています。その人にとって個人的に親友でもあった家族だったのです。
 私は、30年間やってきた自然農業をやめざるを得ません。老後を楽しく過ごそうと作り上げてきた、福祉の事業もその存続が危ぶまれています。近くに住んでいた、気の合った農業仲間のほとんどが全国に散らばりました。助け合い楽しくつつましく暮らしてきたこれまでのささやかな幸せは、たかが「電気」一つ作るための「原発」でその全てを奪われたのです。
 事故は起こらないと「安全神話」を言い続けてきた政府と、東電はこの期に及んでその過ちを認めず、これまでは「5重の壁」で守らなければならない程危険な代物が、そこらじゅうにそのまま放置されているのに、こともあろうか今度は「放射能安全神話」を打ち出してくる始末です。福島の子どもたちを守らず、福島県民の苦悩も無視して進める政府は、何を守ろうとしているのでしょうか。経済最優先もここまで来ると、とても人間の心を持っているとは思えません。
 その上、こともあろうか、日本だけだは飽き足らず、世界に原発を輸出するとは世界中の子どものいのちを奪うつもりか?と怒りがますます募ります。
 原爆の悲惨さを隠すためにその被害を小さく見せようとした、アメリカが「核の平和利用」とばかりに日本に原発を輸出した、それと同じことを今日本がやろうとしているのです。「原発はもう収束した、放射能では大した被害はなかった、除染すれば大丈夫」と。
「原発」のことなど何も知らされずに、貧しい農村では「働くところができる」と一部の金儲けの人々のために受け入れた日本のように、ヨルダン、ベトナムの人々も同じ道を歩いてしまいます。
こんなことがまかり通る世の中を動かしているのは、誰なのですか?国は誰のためにあるのですか?地球は人間だけが住んでいるのですか?
人間は、自然なくしてはその生存すらあり得ないはずです。自然をこれほどまでに汚染し続ける原発を世界中に作りまくった1パーセントの金持ちのために、99パーセントの人々と、自然の生き物全てが被害を受けなければならないのですか?いや、考えてみてください、自然は誰にでも平等です。ならば、1パーセントの金持ちにも必ずその被害は及ぶのです。
早く気付いて下さい。お金が一番大切なものではないことを。私が、あなたが、今一番大切にしなければならないものが何なのかを。この地球は今生きている人間のためだけにあるのではないことを。
もし、タイムマシーンが存在するとしたら、それはあなたの心の中にある「想像力」です。100年前、1万年前、10万年前の地球はどうだったか?人間は何をしていたか?100年後、1万年後、10万年後の子どもたちに残したいものは何か?それくらいの長い目で考えてみてください。今のこの瞬間の人間の欲望だけで、この大切ないのちを奪ってしまっていいのですか?
 私たちは、過去の様々な困難を乗り越え繋がってきたいのちがあって初めて、今この時代に生まれてきたのです。それに感謝する心を忘れてはいけません。必要があって生まれてきたいのち一つ一つが全て大切なのです。無用に奪っていいいのちなど一つもないのです。
 人類は、これまでスリーマイル島、チェルノブイリを経験してもまだ、原発を止めることができませんでした。本当に悲しいことです。フクシマが起こって、反原発運動をしてきた全ての人々が「なぜチェルノブイリの後に原発を止められなかったのだろうか」と後悔しました。ヒロシマ、ナガサキを経験した人々は、「自分たちが最後の被爆者にしなければ」との思いが届かず後悔しました。
 フクシマはこれらの後悔した人々と繋がり、本当にもう二度と、福島県民の味わった苦しみを誰にも味わはせてはならないと、メッセージを発信しなければならない立場におかれました。福島には、「福」がたくさんありました。「きれいな、水、空気、大地、そこからとれるおいしい食べ物」この「福」を全て奪った原発を決してこのまま、動かし続けてはいけません。
 そのメッセージは、世界中に届けられると信じています。そして、世界中の原発が止まったとき初めて、フクシマはこの苦しみ、悲しみ、怒りを収めることができるのです。それまで、フクシマを風化させてはいけないと覚悟しています。
(このアピールは、2012年3月に開催された国連女性会議(CSW)のために書かれたものです。)

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