石巻市長 様 2012(平成24)年5月★日
811-4305 福岡県遠賀郡遠賀町松の本5-2-9
斎藤利幸法律事務所
弁護士 斎 藤 利 幸
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ガレキに関するお願い
冠省 この度の大震災により甚大な被害を受けられましたことに対し心からお見舞い申しあげます。一日も早い復興をお祈り致します。
1 さて、福岡を始め九州には福島県はもちろん東北、関東圏からの避難者の方々が多数おられます。
なぜ関東圏からもと思われることと存じますが、その実態は、子供や自分自身に異変を感じた親子(ことにお母さん)が圧倒的に多いのです。この様な人々は、事故後すぐに避難したのではなく、相当経ってから異変を感じて後に避難しています。
3 事実として、そのようなお母さん方の訴えを素直に聞きますと、同じ放射線でも、その影響は、個人によりかなり異なっており、大別すると非常に敏感な人々と、それほどでもない人々がいるのではないか、と思われることです。
そして、非常に敏感な人というのは、いうまでもなくそれほど強靱な体を有していない人であり、それだけに体に悪いものの影響を受けやすい人、あるいは子供のように新陳代謝が激しいために、例え微弱であれ放射線の影響を受けやすい人達です。分かりやすくいえば、弱い人達なのです。
そのような人達が放射線の影響を逃れるために、九州まで避難してきているのです。もちろん仕事を変え、新たな仕事を探しながらですので、生活の困難さは容易に想像して頂けるものと思います。それでも、子供を守るための一心で、それこそ必死の思いで生活をしています。いわば、原発事故の影響をもろに受けている、本当の意味での「弱者」なのです。
4 この様な大変な立場に置かれた人々の上に、今回の震災ガレキ受け入れの問題が湧き上がりました。具体的には、北九州において御市のガレキを受け入れようという動きです。それが助け合い、「絆」の名の下におこなわれようとしているのです。
これは折角放射線の影響から逃れてきた弱者にとっては、まさに驚愕することであり、信じられないことであり、クリーンと信じてきた九州に対する思いを裏切られるかもしれないという恐れと落胆、つまり絶望の淵にあえいでいる状態なのです。そのように追い詰められた状態の中で、最後の力を振り絞り、ガレキ受け入れ中止の運動をおこなっています。
5 ここで注意して頂きたいのは、御地のガレキが非常に危険だということではなく、ほんの少しの放射線しか出さないようなものであっても、この人々が受ける影響は、普通の人間が受ける影響の何十倍、何百倍もあるかもしれないということです。
体のことでいえば(外のことでも同じですが)、弱者は強者(健康状態の良い人・通常の人)に合わせることが出来ないという事実です。たとえば足を失った人は、足のある人に合わせることが出来ません。放射線の影響に敏感な人(弱者)も、なかなか影響を受けない強者にあわせて生活をすることは不可能なのです。
それではこの様な場合どうすればよろしいのでしょうか。
その解決策は、強者が弱者に寄り添うように合わせるほかありません。本件でいえば、その放射線の影響を受けないように出来ることをする、と言うことであり、北九州でいえば、例え微弱であっても、危険があるかもしれないガレキの持ち込みをしないということになります。
6 我々は北九州市に対して、以上のガレキ受け入れをしないように、被災地の援助は、たとえば福島県の子供の避難受け入れや、汚染されない野菜等の食糧の供給をすべきことを要望し、反対運動をおこなってきました。あるいはガレキや事務処理の人員が不足するのであれば、北急市の職員を派遣させて、処理を援助すると言うことも検討されてしかるべきかもしれません。
しかし、一旦行政が動き出してしまうと、方向修正は難しいものらしく、悲しいことに、行政というものは、ブルドーザーのように進行していきます。北九州市としても例外ではなく、検討会の設置、試験焼却予定と進んでしまっています。
7 本来行政は住民の生活や安全を守るためにあるのであり、そうであれば、弱者の保護を最優先にすべきだと思われます。
まして本件では、強者と弱者の間に政策的な対立(弱者を守ると強者が害されるといった)ことは何もなく、かえって強者といえども影響を受けるかもしれない放射線の影響を遮断出来るのですから、結局は住民全員の利益になることであり、弱者に寄り添う決定をするのに、何も問題があるはずはないのです。
北九州市もこのことは分かっているはずであり、そのためにガレキ受け入れの理由として、(やむなく)御県あるいは石巻市の要請による、援助・「絆」を理由としております。
8 私たちは、御市がガレキの処理につき北九州市の受け入れがなければ不可能なのか、もしかすると、私たちの要望は単なるエゴ活動に過ぎないのかという恐れを常に抱いてきました。そして、もし御市において、北九州市の受け入れが不可欠というのであれば、我々自身が、再び避難のために動くしかないのか、という恐れも抱いておりました。
ところが、我々の仲間が御市に対して質問をしており、御市のガレキの処理の方針につき以下のように回答されました。
『広域処理は1つの選択肢でありますが、放射線数値を含め、ガレキの安全性が確認され、受け入れ自治体の住民の皆様方の健康被害への不安及び輸送経費の問題が解消されない限り、本市のガレキを他事自体へ搬出することは考えておりません。』
これは本来の自治体のあり方として、受け入れ側住民の意見を大事にされる姿勢を明らかにして頂いたものとして、我々は非常に深く感謝申しあげる次第です。
当回答は「生活環境部災害廃棄物対策課 佐々木 塁」様名義でなされておりますが、御市にとって極めて重要な瓦礫処理の問題に対する回答につき、市長様のご意見を伺わずに行うなどと言うことは考ええられません。即ち、当該回答は、市長様の自己地の住民のみならず、遠く北九州の住民にまで配慮した住民重視の深い思考が示されたものと受け止めております。市長様が、この様に暖かい配慮をなされたことに、表す言葉がないほどに感謝申しあげる次第です。本当にありがとうございます。宮城県とされましても、この様な、他県住民まで思いやる石巻市のご配慮には賛同されるものと思います。
9 以上の様に暖かい配慮を頂き、この上にお願いするのは心苦しいのですが、御市として、北九州市に対しても、この住民重視の思想を伝えて頂けないでしょうか。
北九州市は検討会を立ち上げて、5月1日にこれを実施し、本月中には試験焼却を実施する意向と聞こえ、私たち弱者の意見を立ち止まって考えるということもなく、「絆」の御旗の下に、受け入れ事実の積み上げに突っ走っております。もはやこの暴走を止めることが出来るのは、「絆」の恩恵を受ける(押しつけられる)御市や宮城県において、外にない状態です。御市が、北九州市民の万が一の安全のために、ガレキの処理は全量自家処理する(予定)と言って頂ければ、北九州市の暴走は止らざるを得ません。
よって、是非、石巻市長様の暖かい配慮の表明として、「全量自家処理」を宣言して欲しいのです。
10 そして、北九州市や国に対しては、御市の全量自家処理を後押しするための援助をお願いして頂ければと思います。たとえば、御市自家処理のための設備や資金の提供を国に働きかけて頂く、場合によっては北九州市の職員の派遣援助を求めるなどです。北九州市としては、災害復興のノウハウを学べることであり、一石2鳥といわなければならないはずです。そして、運送費や北九州市に対する処理費用の援助を考えれば、当然なされるべき援助と思われます。
兎に角、北九州市として応援できることは、わずか20%のガレキ受け入れという方法でなく、たくさんあるものと思われます。
11 大震災の傷跡はなお今も深く、地震や津波の心配も去っていません。
それどころか、関東大震災の恐れ、東海三連動地震の恐れなどなど、日本全体に前途多難な環境にあります。
しかし、どのようなことが起きようとも、地域住民を大事にする行政と、これに応える住民の努力があれば、必ず、そして震災以前にも増して、真の復興を果たすものと思います。御県の真の復興を願いつつ、御礼並びにお願いを送らせて頂きました。
何卒後ご高配頂けますようお願い申しあげます。
草 々